マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 安納 献 (監修), 小川 敏子 (翻訳)の『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』という本を読みました。
NVCとは?
Nonviolent Communicationの略で、非暴力コミュニケーションのこと。
「人を思いやるコミュニケーション」とも呼ばれている。
NVCは1970年代に、アメリカの臨床心理学者であるマーシャル・ローゼンバーグによって体系化・提唱されました。
日本にNVCが紹介されたのは2006年頃で、有志が海外から認定トレーナーを招いてワークショップや講座を開催してきたそうです。
2012年に訳書であるこの本が出版され、広がりが加速したとのこと。
提唱者 マーシャル・ローゼンバーグとは?
アメリカの臨床心理学者であるマーシャル・ローゼンバーグは、1934年にオハイオ州で生まれ、2015年に亡くなった。割と最近の人ですね。
NVC提唱の経緯
ローゼンバーグは1943年の夏に家族でミシガン州のデトロイトに引っ越し、そこで印象的な出来事が2つ起きる。
一つ目は、引っ越して2週間後、人種間の争いが起き、40人以上の死者が出た。家の近くで起きた暴動だったため、家族はみな3日間、家から出られなかった。
二つ目は、転校先で、名前がユダヤ系だとわかるやいなやクラスメイトに見下された言葉を投げかけられ、更には殴られた。
その夏以降ローゼンバーグは、「何がどう影響して人への思いやりが失われてしまうのか? そしてそのあげく、暴力的になったり相手から搾取したりするようなふるまいに出てしまうのか?」「逆に、どれほど過酷な状況に置かれてもなお、人を思いやる気持ちを失わずにいられるのはなぜなのだろうか?」という疑問について考え続けた。
大学に進学後、カールロジャーズのもとで研究を行い、ウィスコンシン大学で臨床心理学の博士号を取得し、その後NVCを開発。
紛争や戦争で疲弊した地域、コミュニティを中心に60以上の国々を訪れ、数万人を対象とする数々のワークショップを精力的に行った。
NVC4つの構成要素
ようやく、NVCについて解説していこう。NVC、つまり人を思いやるコミュニケーションプロセスは、
①観察(observations)
②感情(feelings)
③必要としていること(needs)
④要求(requests)
という4つの要素で成り立っている。もう少し詳細に見ていこう。
➀判断や評価をまじえずに状況を観察する
まず一つ目の要素「観察(observations)」では、判断や評価をまじえずに状況を観察する。
人とのコミュニケーションで発生したことを、別の人に話すシチュエーションを思い浮かべて欲しい。
例えば「同僚が私のやることなすことを見張っていて、すかさず文句をつけてくる。ほんといやになっちゃう。」と描写したならば、それは評価・判断が混じっている。「やることなすこと見張っている」も「すかさず文句をつけてくる」も主観が入り交じっているのだ。
事実だけを述べるのなら、「私が取引先との電話を終えたあと、同僚が「価格調整について伝えた方が良かったんじゃないか」と言ってきた。」などになるだろう。
➁相手の行動を観察したとき、自分がどう感じるかを言語化する
二つ目の要素「感情(feelings)」では、相手の行動を観察したときに、自分がどう感じるかを述べる。
例えば「同僚が取引先との電話内容について言及してきたので、聞かれていたと思うと恥ずかしく感じた。また、事情を知りもしないのに一言言ってきたことにイラッとした。」など。
とはいえ、感情を言語化するのは難しく感じることもあるだろう。
NVC Japanのホームページに感情リストがあるので、参考にすると感情を言語化しやすい。
https://nvc-japan.net/data/Feeling&Needs+intention.pdf
➂何を必要としているからその感情が生み出されているのかを明確にする
三つ目の要素「必要としていること(needs)」では、自分のニーズを明確にする。
感情が沸き起こるとき、それは何かニーズが満たされた/満たされていないから起きるのだ。だから4つのステップでは、感情⇒ニーズの順番でみている。感情を受け止め、その奥にあるニーズを明確にする。
例えば今回の例でいうと、「自分の仕事のやり方を認めて欲しい、安心して任せて欲しい」など。
これも、先ほど挙げたNVC Japanのホームページにニーズリスト(2枚目)があるので、参考にすると言語化しやすい。
https://nvc-japan.net/data/Feeling&Needs+intention.pdf
④相手に対する具体的な要求を伝える
四つ目の要素「要求(requests)」では、ここまででわかったニーズを元に、相手に具体的な要求を伝える。
そのときのポイントとしては、肯定的な行動を促す言葉を使うこと。
何を要求「していないか」ではなく、何を要求「しているか」を表明する。
例えば先ほどの例だと、「アドバイスをしてくれるのは有難いのだけれど、ときに窮屈に感じてしまうから、私のやり方を信じて欲しいの。」といったところだろうか。
➀~➃を相手に対して行うことで、「共感をもって受け取る」
NVCでは、相手とのコミュニケーションにおいて、先述した4つの要素を言葉あるいは言葉以外の手段で明確に表明していく。
次に、さらに応用として、相手に対して①~④を行うことについて書こうと思う。
相手の表現を共感を持って受け取る
自分が表現する代わりに、相手が何を観察し、感じ、必要とし、要求しているのかを聞く。
それにより、相手の表現を共感を持って受け取ることができる。
そうは言っても、日常で実践するのは難しい。
例えば、パートナーが怒りながらあなたの行動を指摘してきたとしよう。「でもあなただって以前……」と怒り返してしまうことも少なくないのではないだろうか。
腹を立てている人間には、面と向かって「でも」をぶつけるのではなく、共感しようとしてみよう。
相手の発言・表現から①~④を理解しようとする
具体的には、たとえどんな発言であっても、彼らの言葉を聞き、彼らが
①観察していることを
②感じていることを
③必要としていることを
④要求していることを聞き取る
「でも」と言い返すのではなく、相手の発言・表現から①~④を理解しようとするのだ。
パートナーとの例でいうと、
①私が洗い物をそのままにしておいたことをパートナーが観察し、② せっかくシンクを綺麗にしたのにまた溜まっていることに怒りを感じたのかもしれない ③ すぐ洗って欲しかった、シンクを綺麗にした行為を尊重して欲しかったと思っているのかもしれない
と仮説を立てて聞いてみるのもいいだろう。
おわりに
以上、NVCについて、4つの構成要素とそれを相手への共感で使う方法をお伝えした。
NVCは、日常生活にも生かせるし、紛争の調停に向けて使われてもいる。
私は、「世界平和に貢献したい」と中高生の頃から思っていて、今ではそんな規模のことはあまり考えなくなったけれど。
NVCを日々の生活に取り入れることで思いやるコミュニケーションをする人が増えて、
それが波紋のように広がって、世界平和に貢献できるといいなぁ、と思った。